これまでに、本マガジンではお菓子の本場フランス、そしてオーストラリアのスイーツ事情を配信してきました。今回は、日本からも距離が近く、旅行先としても人気の高いアジアに目を向け、シンガポール在住経験のあるライターが現地のトレンドについてお知らせします。
みなさん、はじめまして。シンガポール在住約6年の経験を持つライターSaveurAmiです。シンガポールで実際に生活をし、私はこの国の虜になりました。あまり知られていませんが、シンガポールには日本にはない魅力的なお店や食べ物がたくさんあります。そんなシンガポールの魅力を多くの方に知っていただきたい、そして現地のスイーツ事情を記事にすることでパティシエやパン職人の方々に何か役立つ情報を提供したいと考えました。
今回は、最近日本でも話題となっているドーナツについてご紹介します。
目次
シンガポールはどんな国??
ドーナツの話題にふれる前に、シンガポールについて少しご紹介します。
この国は、建国してまだ60年に満たない国でありながら急激な経済成長を遂げています。 「アジアのハブ」と言われるだけあり、街はとても近代的で発展しています。
現地の食に目を向けると、パティスリーやベーカリーも世界的に名の知れた店舗が軒を連ね、街を歩くと各国の魅力的なスイーツやパンに出会うこともしばしば。それに伴い、現地のパティシエやパン職人も年々技術の高い方が増えているように感じます。
シンガポールは自国面積が狭いこともあり、食料の9割を輸入に依存しています。これは、裏を返せば海外からの食品や文化に馴染み易い環境にあるともいえます。話題のお店の海外第一号店がシンガポールにできることも多く、流行にもとても敏感です。
日本でも再び関心が高まっているドーナツも例に漏れず、シンガポールでは一足早めにブームが訪れていました。
シンガポールで発展したオリジナリティのあるドーナツとは
シンガポールで流行りのドーナツ は?
シンガポールのドーナツは、センターに穴のあいたものではなく、中にクリームを詰めた丸い形のものが主流です。世界で丸い形のドーナツと言えばイタリアの「ボンボローニ」やハワイの「マラサダ」が代表的ではないでしょうか。シンガポールのドーナツは、「ボンボローニ」に近いものです。
そもそも、「ボンボローニとマラサダは何が違うの?」と思われた方もいるかもしれませんので、かんたんに各ドーナツの特徴をまとめてみました。
ポイントは、産地、中身、食べるタイミングが異なることです。具体的に言うと「ボンボローニ」は、イタリアのトスカーナ州を代表するお菓子。揚げた発酵生地の中にクリームやジャムを詰め、仕上げに砂糖をまぶし、冷えた状態でいただきます。
「マラサダ」はポルトガル生まれのお菓子で、同じく発酵させた生地を油で揚げ、表面に砂糖をまぶしたもの。ボンボローニと異なるの点は、マラサダはオーソドックスなものはクリームを入れず熱々のままいただきます。
ちなみに、日本で話題の「生ドーナツ」は、見た目はボンボローニにとても似ています。小麦粉を主原料とし、水・砂糖・バター・卵などを加えて練り込んだ生地を油で揚げているものが多いです。先にあげた二つと日本の生ドーナツとの大きな違いはパン酵母(イースト)などで発酵させていない点で、空気を含んでいるように食感が軽く、ボンボローニやマラサダよりも生地が軽く柔らかいのが特徴です。
オススメのドーナツ専門店 をご紹介
ここでは、私が実際に現地で食したことのあるシンガポールのドーナツ専門店のなかで、とくにオススメしたい二店舗をご紹介していきます。
❑Doughnut Shack(ドーナツ・シャック)
シンガポールのドーナツ専門店のなかでもいち早くオープンし、話題となったお店です。専門店のなかでも私がドーナツを好きになるきっかけをつくってくれた思い出深いお店でもあります。
実は私は以前まで、ドーナツは「油っこくて重たいもの」というイメージがあり、他のスイーツに比べて積極的に食べなかったのですが、そんな概念を良い意味で変えてくれたのがこのお店のドーナツでした。油っこさも重たさもまったく感じず、むしろふわふわもちもちの軽い食感の生地の大ファンになってしまいました。
店頭にはさまざまな種類のドーナツが並んでおり、どれも購入したくなってしまいます。オープン当時にお店に訪れた際には「ボンボローニ」タイプのドーナツのみの販売でしたが、人気が出るとともに徐々にメニューが増えていき、穴のあいたドーナツや、チーズやハムなどが入ったお食事系も出てきました。
メニューが増えても人気の上位はヘーゼルナッツ・スプレッド の「ヌテラ」が使用されたものやクリームブリュレ風のボンボローニでした。
右上からクリームブリュレ、ヌテラ、ピスタチオ、ブルーベリークリームチーズです。
このお店の特徴はグローバルで多様なフレーバーで、日本ではなかなか見かけないドゥルセ・デ・レチェ(dulce de leche)やバノフィーパイ (Banoffee pie) などの商品です。
ドゥルセ・デ・レチェは主にラテンアメリカで食べられているキャラメルミルクスプレッドで、バノフィーパイはバナナとトフィーでつくるイギリスのパイ。他にも抹茶やほうじ茶を使ったもの、NYチーズケーキやアメリカで有名なピーナッツバターのお菓子Reese’sのフレーバーなど。メニューが豊富なだけでなく、各国の名物の味が表現されています。
バリエーションとともにお伝えしたいのはドーナツの生地。ふわふわもちもちの生地は柔らかく食感が良いことに加え、薄皮でとても軽いのです。ソフトな生地は手に持つと崩れてしまいそうなほど。私は実際にイタリアでボンボローニを食べたことがありますが、本場のものは生地がもっと厚く、こちらの方がより薄皮で柔らかく、中のクリームもたっぷりでした。生地の柔らかさや厚みだけでみると、シンガポールのドーナツは日本の生ドーナツに近いような気がします。
オープン当時のお店はテイクアウト専門でしたが、現在はイートインスペースもできたよう。販売方法は店内で好きなものをオーダーする対面式かオンライン注文で受け取り、もしくはデリバリーで購入も可能です。
店舗情報
公式サイト:https://doughnutshack.oddle.me/en_SG
❑ Sourbombe Artisanal Bakery (サワーボンブ アルチザン ベーカリー)
このお店で特筆すべきは、生地にサワードゥ種を使用していること。パンを作る際にもよく使用されますが、サワードゥでつくったパンは、ほんのりとした酸味があり、小麦そのものの味をより深く味わうことができると言われています。それに加え、サワードゥブレッドは、消化しやすい、ぶどう糖が少ないなどの健康面でのメリットもあるようです。
シンガポールでは健康志向の方が多いためか、サワードゥ種を使用したパンを販売するベーカリーが多くあります。ヨーロッパで一般的なサワードゥブレッドはもちろん、他ではなかなか見ないサワードゥ種のクロワッサンなどを提供している店舗もあります。こうしたお店が増加傾向にあるのは、「スイーツやパンを食べたいけれど少しでも体に良いものや素材の味を活かしたものを食べたい」という方が多いことに起因するように思います。ドーナツに興味を持ってから、色々なお店に行きましたが、サワードゥ種を使用したドーナツは Sourbombe Artisanal Bakery以外にはありませんでした。
当初はオンライン限定の販売でしたが、とても人気が出たことから店舗展開を始め、現在はチャンギ空港店を含め島内に4店舗出店しているお店です。私が訪れたのは周辺に大きなショッピングモールや映画館などがあり便利な場所でドビーゴート駅にあるお店。
左上から、1列目は、シナモン、抹茶+烏龍茶(中に小豆入り)、タイミルクティー+マンゴー、2列目は、ブルーベリー+レモンと紫蘇のクリーム、ラベンダーライム+マスカルポーネ、ほうじ茶+キャラメルクランチ、3列目は、ピーナッツバター+ストロベリージャム、パッションフルーツ+キャラメライズドバナナ、バスクチーズケーキ(ブルーチーズ入り)です。
お店ではシーズンごとにメニューを変えているため、現在は私が購入したものとは異なるフレーバーも出ています。どれもおいしいことに加え、他のお店にないフレーバーがある点が面白かったです。
Doughnut Shackと違い、 Sourbombe Artisanal Bakery は一つのフレーバーではなく、食材をいくつか組み合わせているのが特徴です。とくに「タイミルクティー+マンゴー」などタイ名物のミルクティーとマンゴーや日本と中国のお茶をコラボさせた「抹茶+烏龍茶」など名物の掛け合わせに独創性を感じました。
組み合わせは他になく味の想像がつかないものばかりなのですが、どれもベストマッチでとてもおいしいです。そして、なんといっても香りのハーモニーが素晴らしい。一口いただくごとに口の中に良い香りが広がります。お茶やレモン、紫蘇やラベンダー、ライムやセージなど、各食材の香りもさることながら、それらが合わさるとこんなにも芳醇で良い香りが生まれるのだと感動しました。サワードゥの少し酸味のある香りがするのも他にないこの店の特徴だと思います。生地も、もちもちとして食感も良く、クリームのおいしさをより引き立てていました。一つひとつの色合いも美しいので、視覚、味覚、嗅覚など五感をフル活用していただく商品ばかりでした。
私が訪れた店舗は、イートインスペースはありませんでした。購入方法は、お店の方に頼んで好きなものを購入する対面式、もしくはオンラインピックアップかデリバリーです。
店舗情報
公式サイト:https://www.sourbombebakery.com/flavours
熱帯・湿気が多いシンガポール、気になるドーナツの日持ちは
ボンボローニタイプのドーナツは残念なことにあまり日持ちはしません。理由としては中にクリームが入っているため、ケーキ同様に生菓子であるということ。また、外側の皮の部分のふわふわとした食感は当日でこそ味わえる点もあります。ケーキを買った際と同じく「本日中に召し上がりください」と言われるのがほとんどです。
とくに、シンガポールには日本とは大きく異なる点があります。それは一年中熱帯の国だということ。そのため、パンやお菓子は湿気や気温を考慮しなければいけません。電車やバスなども含め基本的に室内は冷房がきいているので大丈夫ですが、外での持ち歩き時間が長い場合には保冷バックなどを持参するのがオススメです(お店では保冷剤の提供は基本的にありません)。
シンガポールは湿気が多いので、パンなどもしんなりしやすい傾向にあります。ドーナツ含め、生菓子やパンは購入してなるべく早くいただくのが良いです。
今回はシンガポールのドーナツについてご紹介させていただきました。目にも美しくおいしいドーナツは、自分用はもちろん、友人へのプレゼントやお持たせなどにも最適なので機会があればぜひお試しいただきたいです。また、今回の情報を参考に、みなさんのお店でドーナツの販売やラインナップを検討するきっかけになれば幸いです。